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兵舎の黒人バナナ争う春の午後

兵舎の黒人バナナ争う春の午後

歌が世に連れるように、俳句も世に連れる。揚句を理解するには、戦後の疲弊した日本社会に心を移して読まなければならない。「兵舎」には「きゃんぷ」の振り仮名。春の午後に、基地の兵舎で、黒人兵たちがふざけ半分にバナナを争っている。ただそれだけの図であるが、作者はただそれだけのことに呆然としていると言うのだ。何故の呆然か。一つには、進駐してきたアメリカ兵たちが、日本の兵士たちに比べてあまりにも明るく開放的であったことへの衝撃がある。とくに黒人兵たちは目立ったこともあり、とてつもなく陽気に見えた。兵舎での食べ物の取り合いくらいは、日常茶飯事という印象だ。日本の軍隊では考えられない光景である。そして彼らのこの陽気は、同時に治外法権者の特権にも通じていると写り、敗戦国民にはまぶしいような存在だった。もう一つには、困難を極めた食糧事情の問題がある。バナナやパイナップルなどは高価で、そう簡単には庶民の口には入らなかった。それをごく普通の食べ物として、平気で取り合っている……。呆然とせざるを得ないではないか。「春の午後」は、さながら天国のような基地の兵舎の雰囲気を象徴した言葉として読める。前衛俳句の旗手として活躍した島津亮にしては大人しい句だが、あの頃を知る読者には、今でもひどく切なく響いてくるだろう。羨まず嫉まず怒らず、ただ呆然とするのみの世界が同じ地上に近接していたのだ。もう一句。「びくともせぬ馬占領都市に花火爆ぜる」。人間よりも馬のほうが、よほど性根がすわっていた。

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2008年12月13日 01:07に投稿されたエントリーのページです。

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